真っ白な階段
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ある日、父さんが、食卓で、姿勢を正しながら、
いつもより、ゆっくりと、ぼくに話すみたいじゃなく、
きちんとした口調で、こう言った。
「お前は、これから、手術を受けないと、
周りの子といっしょに、生活が出来ないんだ。
だから、明日から、家をしばらく離れて、
病院に行って、そこで、生活するんだよ」
ぼくの新しい生活がはじまった。
これまで見たことがないくらい、大勢の人が、
忙しそうに行ったり来たりしている。
ずっと横になっている人も、たくさんいる。
ぼくが、あちこち見てまわるものだから、
「あんまり遠くまで、いっちゃだめよ」と
看護師さんに、そっと注意された。
ひとつの町が、透明の壁になって、
いろんな人の生活が、すぐに見えるような、
そんな気がして、ぼくは、不思議だった。
建物の中には、真っ白な階段があった。
同じ部屋の子たちと、いっしょに、
それを見上げた。と同時に、
だれがさきでもなしに、みんな昇り始めた。
大きな子も、小さな子も、手すりを支えにしたり、
よつんばいになって、昇っていく子もいる。
昇っていこう、昇っていこう、
だれかが、歌うように声に出す。
のぼっていこう、
のぼっていこう、
なんて愉快なんだろう。
どこまでも続く階段が、目の前に広がっていた。
絶対に、終わりはなかったんだ。
ぼくらは、だれも、階段が途切れたのを見なかった。
看護師さんの後ろ姿が、
階段の先にいて、ぼくらに気づいて振り向き、
「まあ、あなたたち」と、止められた。
さくらんぼみたいな色の赤い口。
「こら、だめですよ!お部屋に帰りなさい」
みんなは、わあっと笑って、階段を下りる。
まだ、看護師さんは、なにか言っていたけれど、
笑い声で打ち消されて、よく分からなかった。
のぼっていこう、のぼっていこう、
あの階段に、終わりはない。
大人になっても、年を取っても、
それぞれの方法で、階段を昇り続けるんだ。
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